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2005年5月30日

2005/05/30

15:電池が切れるとき

yosinogari 最近何かで読んだことだが、死んだ虫を見た小さな子供が「電池が切れたんだね」といったとあった。そろそろ電池交換時期を迎える私の心臓ペースメーカと思い合わせて複雑な気持ちであった。

20046月、旅行代理店に海外旅行を申し込んだ時のこと。一枚の用紙を渡された。そこに「使用している介助機器の申告」という欄があった。そんなものはないわと思いながら例示された文字を拾い読みしていたら、最後に「心臓ペースメーカ」とあった。実は5年半前から私はこの介助機器のお世話になっている。しかし日ごろはこの介助機器に生かされているという感謝の気持ちは薄い。ここで、この機器のみならず日本の医療技術、健康保険制度にも改めて感謝したい。

友人・知人に心臓ペースメーカを植込んだことを伝えると最大の関心事は「症状をどうして発見したか?」ということだった。

6年ほど前のある日、私はコタツに入ってテレビに見入っていた。ふと、私の体が居眠り状態に前のめりになった。「目眩み」というようだが、ひどい場合には「失神」して酷い怪我をするという。おかしいなとは思ったが、老化現象の一種では?と呑気に構えていた。2,3ヶ月ほど経過して、たまたま風邪で病院を訪れる機会がありそのことを伝えた。脈を診たお医者さんは「心拍数が35しかない」といい、携帯型の心電図測定器で24時間の記録を取るよう指示された。結局、この病院では対処出来ないという重症のデータが出て、国立病院に送られた。病名は「洞機能不全症」と「心房性期外収縮」。前者は各人の心臓内の「自己ペースメーカ」といわれる右心房内の「洞結節」の機能不全、後者は重症の不整脈(微細動)ということであった。

わが国のペースメーカ植込み人口は最近の統計によると約40万人、私はその仲間の一人である。パソコン機能を持つこの超小型機器はおおよそ:55ミリ×45ミリ×6ミリ程度、重さ:約24グラムという精巧で信頼性の高い機器である。とはいえ事は生命に関すること。もしも誤動作や故障があっては大変である。例のミレニアム問題ではこのペースメーカも一時期対象になったことがある。しかし現在も警告されているものは巷に氾濫している電子機器から発射される微弱な電波や、日常の生活環境に存在する家電などからの電磁波である。

この賢いペースメーカは心臓に電気刺激で「さあいま、脈を打ちなさい」と指示する前に、本来の心臓の動きを読み取ってそれとバッティングしないように調整して指示しているという。こうした各人の心臓機能に対して細かく設定されているデータが外部電波の影響でリセットされてしまうこともあるというのだ。6ヶ月毎のペースメーカチェックは、このようなデリケートな働きを行うための、調整値の異常の発見や電池交換時期の推定を行っているものと思われる。

先日のチェックの際、電池が大分消耗しており、次回のチェックは3ヵ月後ということになった。電池交換の時期は個々人の症状によって異なるようで、私の場合右側の心房と心室の両方にペーシング用の電極針が刺してあるため電池の消費量が多く、6~7年の電池寿命といわれている。

私のペースメーカはスルザーインターメディックス社(Sulzer Intermedics)製である。Sulzer社は私の記憶に間違いなければスイスの名門機械メーカであり、舶用エンジン、織機など重工型企業である。このスルザーインターメディックス社はその関連ハイテク企業であろうと推測しているが果たして如何なものであろうか。

先日(2005.05.26)発表された東京女子医大グループによる埋込み型の「小型補助人工心臓エバハート」は、各マスコミとも快挙として好意的に受け入れている。生体移植が期待したほどに進展せず(脳死移植法整備の97年以降27人)、また需要を供給が満たし得ない現状から、自己の心臓の補助として、併用する形の次世代型人工心臓の開発は大きく期待されている。今回の発表はポンプ機能としての心臓自体の開発であるが、私が世話になっているペースメーカについては、歴史は古いが何故か全て舶来品である。

今回のニュースに難癖をつけるつもりは無いが、インターネットで検索すればわが国のテルモ社の米国子会社が「テルモ人工心臓開発」を推進中で、目下臨床実験中であるといい、東京女子医大グループだけが独走しているということではない。(テルモと人工心臓の関わりは、1989年、人工心臓の父と呼ばれる阿久津哲造氏が研究開発の最高責任者としての入社したのが最初であるという

527日の朝日新聞社説によれば、わが国での問題点は、治験がやりにくいなどの開発環境整備の遅れ、人工心臓開発に関係する省庁がばらばらに投資するという効率の悪さ、医療機器の承認システムの未整備、承認申請時の規則の未整備などで欧米諸国に遅れをとっているようであり、先ずは第1歩ということであろう。

では、ペースメーカが輸入に頼っている理由は何であろうか?欧米にすでにかなりのメーカーが存在し参入の困難さがあることは想像できる。

ペースメーカは3つの部分、すなわち本体部(パソコン機能の超小型精密機器)、リード線、電池の3部門から成り立っている。超小型精密機器部分の開発にハイテクを要し高価であろうことは容易に想像できるが、そこから心臓内壁部に突き刺された電極までのリード線も一本30~40万円する高級材料だそうである。たかがリード線ではない。なぜなら110万回もの振動による材料の劣化(疲労)に耐える必要があるからであろう。一般に材料は10の6乗、すなわち百万回の振動に耐えれば合格とする疲労試験を行って材料の疲労特性を評価している。しかしこのリード線は容易に交換という訳にはゆかない極めて高い信頼性と半永久の寿命が期待されているのであろう。電池はすでに6年~10年の寿命が確保できており、6ヶ月ごとのペースメーカチェックで電池の寿命予測も出来る。また、電池交換は比較的簡単に出来るようである。しかしリード線の断線予測は容易なことではなく、もし断線すれば初期植え込みとほぼ同等の手術を要するだろう。わが国にその種の高度な材料技術が存在しないということは考えられないが、総合的にみて、参入の遅れではなかろうか?

研究開発力だけでいえば国産の心臓ペースメーカもこの人工心臓も日本ほどのハイテクがあれば開発出来ないことはないであろう。

私の想像では、日本人の致死病に、欧米型の心臓疾患が遅れてやってきたという事情がペースメーカなど循環器病関係の医療器具の開発時期を遅らせ、私の胸に「スルザーインターメディックス社」を印象深く植込む結果となったのであろう。

そんな開発競争の中で、ポンプ機能を持つ人工(補助)心臓の研究・開発だけは欧米諸国と比肩しても十分にリードの取れる課題ということになったということであろう。

今後は政府の対応が問われているというべきではなかろうか。(2005.05.30

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